相続問題でお悩みの方へ

会社を継いだ子と継がない子との間でもめないようにしたい

以下の事例で説明します。

事例

私には妻と息子が二人います。
会社を経営していますが、そろそろ次の世代に継がせようと思っています。
長男は家庭を持ち、5年前から私の会社の役員をしていますが、次男は結婚もせず、のらりくらりしています。
兄弟仲はあまりよくありません。
会社は長男に継がせようと思っています。会社の株式は100%私が所有しています。
長男に自社株を譲渡する場合の問題点を教えて下さい。

1.遺留分の問題

自社株は、経営権と財産権という経営の根幹に関わるものです。
したがって、経営者としては、自社株を後継者に譲りたいと思うはずです。
しかし、自社株を後継者に譲るためには様々な問題点があります。
その一つは遺留分の問題です。上記事例の場合、妻と次男に遺留分があります。
したがって、長男に全ての財産を相続させる旨の遺言を作成した場合でも、妻と次男の遺留分を侵害することはできません。
妻は文句を言わないとしても、次男が遺留分を主張した場合、原則としてこれを拒むことはできません。

2.次男に遺留分を主張される可能性がある場合

次男に遺留分を主張される可能性がある場合、対策としては、まず、被相続人に株式以外の財産がある場合、遺留分に相当する財産を譲渡して遺留分の放棄に応じてもらう(ただし、家庭裁判所の許可が必要)ことが考えられます。

ただし、中小会社においては、自社株の評価額が予想外に高くなる傾向があるため注意を要します。
中小会社における株式の評価は、純資産価額に基づいて算定されます。
細かい説明は省略しますが、大会社と比較して一般的には株価が高く評価されてしまいます。

したがって、遺留分の算定にあたり、他の相続人に対し、予想外に高い金額を支払うことになる可能性があります。
対策として、様々なスキームが提唱されています。
オーソドックスな方法としては、オーナー経営者の生命保険金の受取人を後継者に指定し、生命保険金を原資にするやり方があります。

3.組織再編を利用した手段

次に、組織再編を利用した手段をご紹介します。
例えば、X社(純資産価額△1億円)、Y社(純資産価額1億円)の両社の株式を100%保有するオーナー経営者が、両社を合併することによって純資産価額を引下げ、株式評価減を図るという方法があります。
ただし難点は、法人税法132条の2で、株式評価減を狙った組織再編成を租税回避行為と位置付けているので、一定のリスクが伴うスキームという点です。

したがって、このようなスキームを採用する場合には、まずは専門家に相談することをお勧めします。

4.議決権制限株式を利用する方法

遺留分に相当する財産を確保できない状況で、次男に株式を承継させるのもやむを得ないとして、それでも次男を会社経営に関与させないためにできることは、議決権制限株式を利用する方法です。

株式会社において、最終的な決定権は株主にあります。
たしかに、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の株式を長男が保有していれば、次男が株主になっても重大な問題は発生しにくいかもしれません。
しかしリスクが全くないわけではありません。

そこで、対策を一つご紹介します。
まず、オーナー経営者保有株式の一部を議決権制限株式に転換します。
そして、長男には議決権の制限のない株式を、次男に議決権に制限のある株式を承継させます。
この方法をとれば、株主総会における次男の議決権行使を制限することができます。
このような株式を新規に発行するためには、株主総会の特殊決議(総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上)(会社法309条4項)で定款変更をしなければなりません。

5.株式を分散させないための対策

一度相続が発生してしまうと、株式が分散してしまい、従前のように後継者に集中させるのがとても難しくなります。
したがって、分散させないための対策が重要になってきます。

効果的な手段としては、相続人等に対する売渡請求ができる旨定款に定めておくことです(会174条)。
このような定款を定めることで、相続が発生しても、会社経営に無関係の相続人から強制的に株式を戻すことが可能になります。
ただし、相続人等に対する売渡請求は使い勝手はいい反面、定款で定めること以外に次の要件を充たす必要があります。

  1. 対象株式が譲渡制限株式であること(会174条括弧書き)
  2. 相続等を知った日から1年以内に請求すること(会176条1項)
  3. 取得に株主総会特別決議が必要になること(会309条2項3号)
  4. 剰余金の分配可能額の範囲内であること(会461条1項5号)

※定款の記載例「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」

6.信託を活用した事業承継対策

最後に、信託を活用した事業承継対策もあります。

信託を利用した簡単なモデルをご紹介します。
まず、オーナー経営者(委託者)が生前に受託者との間で、議決権行使の指図を前提として、株式を信託財産とする契約を締結します。
オーナー経営者の死後、受託者は、委託者からの指図に基づいて議決権を行使します。相続人らは受益者として配当等の利益を享受します。
そうすると、会社経営に関して無用な混乱を避けることができるのと同時に相続人に受益させることができます。
信託は契約がベースなので、委託者のニーズに応じて柔軟にスキームを組み立てられることが特徴です。

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