相続問題でお悩みの方へ

会社は順調に発展し、後継者もいるが、相続税が心配です

中小企業経営承継円滑化法(以下、「円滑化法」という。)には、「事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予制度」があり、これにより事業の円滑な承継を可能にすることができます。

特に平成30年度税制改正では、事業承継税制の改正による相続税の納税猶予の枠が10年間の特例措置として広がりました。
経営者からの非上場株式の承継については、事前提出期限である2023年3月31日までに特例承継計画を提出して手続を経ることで、2027年12月31日までの贈与・相続が特例措置の適用を受けられます。

また、平成31年度税制改正では、個人版事業承継税制として、個人事業の事業用資産の承継に対する贈与税・相続税の納税猶予制度が創設されました。

今後、これら改正に基づき、事業承継税制を利用した株式(個人事業主の場合は事業用資産)の譲渡が増えていくと予想されます。

しかし、この制度を利用するためには、非後継者が有する遺留分の問題をクリアしなければなりません。

なぜなら、実際の相続発生時に、非後継者である相続人から遺留分侵害額請求権を行使された場合、贈与された株式・事業用資産に対しても遺留分の効果が及んでしまいます。
価額を弁償することになって後継者が金銭負担を負い、実質の承継価値は目減りすることになり、結局は贈与の効果が薄れてしまうことになります。

そのため、親子間の事業承継を行う場合には、遺留分を意識し、後日の紛争を防止しなければなりません。
後継者と遺留分権利者全員との間で合意可能であれば、遺留分に関する民法の特例を利用することもできます。

「事業承継における遺留分に関する民法の特例」について詳しくお話します。

以下のケースを考えます(中小企業庁作成資料をもとに相続法改正を反映)。

事例
  1. 経営者A(妻は死亡)、子B、C、Dがおり、Bが後継者です。
  2. Aは、12年前に自分が保有する株式1億円分を後継者である長男Bに生前贈与しました。
    その後、後継者B自身の貢献により相続開始時までに株式の価値が10倍に上昇し、現在の価値は10億円となっています。

    【相続開始時のAの遺産】
    2億円(不動産、現金等)
    【Bに生前贈与された株式の価値】
    (15年前)1億円 → (相続開始時)10億円
  3. A死亡時に、生前贈与された財産は、贈与時ではなく、相続時の評価で合算されます。
    そのため、遺留分算定の基礎財産は、2億+10億(贈与株式の相続開始時の評価)=12億円となります。
  4. このケースでは、C、Dの遺留分は各1/3の法定相続分の半額で1/6ずつ、すなわち2億円ずつとなります。
    そのため、自分の努力で株式価値を上げた後継者Bは、Aの遺産である2億円をまったく取得できないだけでなく、C、Dに遺留分侵害額請求がされた場合には、C、Dに対し各2億円を支払うことになります。

このような結果を避けるため、事業承継税制を利用するときには、Bは、CとDとの間で贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外することの合意(除外合意)や、贈与株式の評価額を予め固定することの合意(固定合意)をすることができます。

この除外合意や固定合意ができれば、上記の例でC、Dに遺留分減殺請求をされても、問題は防止でき、後継者Bは、会社経営に専念することができるようになります。

除外合意の場合、贈与株式を遺留分侵害額の算定対象財産から外せるため、他の財産2億円だけが遺留分侵害額の算定対象になります。
すなわち、最低限C・Dに対して譲らなければいけない財産は、それぞれ2億円の1/6である約3333万円となります。
Bは、株式のほか、Aの遺産から最大で約1億3333万円を取得できることになります。

固定合意の場合、株式の評価を1億円と固定合意することで、全体として3億円分の財産のみを遺留分侵害額の算定対象にすることができます。
すなわち、最低限C・Dに対して譲らなければいけない財産は、それぞれ3億円の1/6である5000万円となります。
Bは、株式のほか、Aの遺産から最大で1億円を取得できることになります。

除外合意や固定合意の制度は中小企業庁のHPや発行資料でも説明がなされていますが、実際に合意を実現するためには非後継者との交渉や申請資料の作成、提出等といった手続きも必要となることから、弁護士を関与させた形で進めていくことが望ましいと言えます。

以上、皆様が事業承継税制を活用して株式の生存贈与を検討する際の参考にしていただければ幸いです。

円滑化法には手続きや要件が細かく定められているので、利用に際しては、専門家(弁護士、税理士、会計士など)に相談したほうがいいでしょう。

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