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会社に負債があり、子に会社を継いでもらうか迷っています

1.事業再生の手法

事業再生の手法として、日本弁護士連合会は、特定調停の手法を推進しています。
特定調停は、特定調停法に基づく法的手続きの一種で、個人の債務整理に使われてきた手段です。
これを法人の事業再生にも利用し、破産や民事再生の手続きを経ることなく、事業再生(廃業も含む)を円滑に行っていこうということです。

具体的には、金融機関などの債権者だけを対象に特定調停の手続きを経て債務の大幅カットを行い、他方、取引先(材料の仕入れ先、下請業者)といった一般債権者に対しては通常どおり弁済し、事業を継続していきます。
破産や民事再生とは異なり、従業員の解雇を伴わずに地域雇用にも資することができ、かつ官報への掲載も避けられるため、信用に傷がつかないといったメリットがあります。
同時に、経営者に対しても経営者保証ガイドラインに基づく特定調停により、破産よりも多くの資産(インセンティブ資産)を手元に残しつつ、再生よりは多くの返済をしつつも、大幅な債務の免除を行い、再出発の手助けをする手段にもなります。

さらに、廃業を考えながら、債務の存在から廃業にも踏み切れない会社や経営者にとっても有効な手段となります。
廃業の場合、事例をみると、事業譲渡をし、雇用や取引先の保護を図りつつ、本体の会社は事業譲渡後に特別清算や通常の清算を行い、経営者は、経営者保証ガイドラインに基づき、債務整理をしているようです。
たしかに、破産では、会社自体は存続せず、従業員は解雇され、会社の資産は処分されてしまい、社会的な損失は大きいものです。
そのため、特定調停の利用により、債務の大幅なカットが実現できれば、事業再生は進むことになるでしょう。

2.特定調停利用の要件

日本弁護士連合会は、特定調停の利用促進のために、以下の3つの文書を出しています。

  1. 「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」
  2. 「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引」
  3. 「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」

【01】は中規模以下の中小企業の再生の手段として特定調手続を利用するためのスキームを規定したものです。
当初は主たる債務者としての中小企業を念頭に置いていましたが、経営者保証GL(ガイドライン)の制定を受けて、保証債務の整理も含めて一体で行えるように改訂しています。

【02】は経営者保証GLを利用して、保証債務の整理のみを特定調停手続で行うためのスキームを規定しています。

【03】は主として事業者の廃業・清算を円滑に進めることと、経営者保証GLを利用して保証債務の整理の両者を特定調停手続で行うためのスキームを規定しています。

これら文書を読むと、特定調停利用のための要件として、債務整理の目的に経済合理性があり、破産などがふさわしくないこと、金融機関の債権を対象とするもので、それ以外の公租公課や一般債権者への支払いが可能(金融機関の理解を得ている)であること、金融機関との間で弁済計画案の事前協議を行い、合意を得られる見込みがあることなどの記載があります。
私がこれら文書を読んで抱いた感想は、このスキームで救える経営者は、会社と個人の資産を明確に分離し、いざとなったら私財を全部提供する(財産も隠さない)覚悟があり、会社経営においても従業員の雇用を確保し、給料をきちんと支払い続け、税金の支払いや取引先への支払いはきちんとしており、ただ、それらの支払いを確保するための運転資金に金融機関から融資を受け続けてきたが、いよいよ事業の先行きが難しいので何とかしなければならない、また自分も高齢で後継者もおらず何とか事業をきちんと他者に譲って関係者に迷惑をかけたくないという強い気持ちを持った人かなというものです。
それだけの覚悟を持っている経営者だからこそ、華美でない自宅の確保や破産よりも有利な財産の確保を認めてあげようというガイドラインの趣旨が感じられるのです。

実際に、特定調停を進めていくには、事業計画の策定、資金繰りの確保、金融機関との事前調整を何度も行う等、弁護士だけでなく会計士、税理士の専門家との連携、その専門家に支払う費用の確保、時間と労力をどれだけかけるかという現実的な問題が立ちはだかることになります。

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